93歳おばあちゃんが作る!エストニアの心暖かいおもてなし料理

5月のベルギーの旅からベルリンに戻って少し一息着くと、その次の日に向かったのは人生初の北欧の国でバルト三国の1つ、エストニア。

エストニアに住んでいる友人がいて、6月に日本に帰国してしまうとのことだったので、「それまでに行こう!」と勢いでフライトをとってしまったら、こんなキツキツなスケジュールになってしまいました。

首都タリンに到着し、最初にすれ違う人々の顔や雰囲気を観察します。同じヨーロッパの国でもやっぱりドイツとは印象が違い、肌の白さと頬にさしている赤みが雪を連想させ、もう少しでロシアに行くまでの距離にやってきたんだなあと実感しました。

さまざまな国を訪れるようになって、旅雑誌やインターネットで紹介されている有名な観光名所や定番の美術館を巡るよりも、その国に住んでいる人たちと関わって、一緒にその国のご飯を食べて、その国のリアルな日常生活と文化を知ることの方が断然おもしろいと感じるようになりました。

そこで友人が住む首都タリンから、バスで片道2時間半で着くことができる「タルトゥ」という街に住む、すてきなファミリーをご紹介してもらい、訪れることに。朝6時半出発のバスに乗り込んで、眠い目をこすりながらも、わくわくで胸がいっぱいの気持ちでタルトゥへ向かいました。

学術と芸術の街「タルトゥ」から、93歳のおばあちゃんの家へ

エストニアと聞くと「IT国家」というイメージが大きいかもしれません。わたしも、とても気になっていてクレジットカードが本当にどこでも使えるのかを試したり、スーパーで小型の機械を持ち歩き、商品のバーコードをスキャンするだけのキャッスレスのお買い物を体験したり、最先端な生活に感動しました。

首都タリンが経済や政治の中心の街、タルトゥはエストニア最古の大学・タルトゥ大学やエストニア国立博物館があるなど学問や芸術の街です。

バスが到着した場所は、そんなタルトゥのにぎやかな中心地でした。そこに紹介してもらったご家族、日本人の奥さんとエストニア人の旦那さん、元気いっぱいの3人の子どもたちがお車で迎えに来てくれていました。今回は、昔ながらのエストニアでの生活を見せてくれるとのことで、なんと93歳のおばあちゃんのお家にご招待してもらったのです!

数十分ほど車を走らせると、窓の外の景色が色鮮やかで美しい自然に変わっていきます。すると、一面菜の花畑で天然の黄色い絨毯が広がる場所を通りかかりました。

わたしの地元も、冬の間田んぼ一面に菜の花を植える習慣があります。温暖な地域なので1月に満開を迎え、同じように天然の黄色い絨毯でいっぱいになります。その様子にとても似ていて、全く違う国の集落なのになつかしい気持ちでいっぱいになりました。

黄色の絨毯を車で駆け抜けると、とても歴史を感じる木造のお家が見えてきました。ついに、おばあちゃんの家に到着です!

「食べ物は自分でつくって、長期保存する工夫を」。おばあちゃんの強く生きていく知恵

▲お庭に自生している、りんごの木に登って遊ぶ子どもたち

庭には、おばあちゃん自身が育てている野菜から、勝手に自生しているハーブや果物たちで、いっぱい。

お姉ちゃんとお母さんが庭を案内してくれて、たくさんの野菜とハーブを1つずつ教えてくれました。

また食料を保管する倉庫もあり、畑で収穫した主食である大量のじゃがいもは、こうして保管しておくと1年間は保つそうです。

おばあちゃんが93歳になっても可能な限り自分で野菜を作り続けている理由は、第二次世界大戦後にシベリアへ強制追放され、とても辛い環境の中で10年間生活していたことにあります。

追放時に30分ほど、持って行く荷物をカバン1つ分だけ準備する時間を与えられたそうですが、時間は短く十分なものを持って行くことができなかったと振り返ります。シベリアではロシア人の家に居候して寒い台所の床で寝る生活。着るものがなく、ロシア人のお古のTシャツを貰って子どもの服を縫ったり、食べ物も全くなくていつも空腹だったり。木の皮を剥いで食べたり、草を食べて飢えをしのいでいたりしたこともあるそう。

食べ物を自分で作る力と長期保存する知恵は、おばあちゃんの生き抜くための武器なのです。

そして食べ物だけでなく、物も全くなくて困った経験から、おばあちゃんは滅多なことではものを捨てず、長い間大切に大切に使い続けています。部屋の中を見渡すと、調理道具もお皿も、机も椅子も年季の入ったもので溢れかえっていました。

それらに、わたしはおばあちゃんの愛と強さを感じました。

蒔で火をおこす、昔ながらのコンロを囲んで、みんなで料理!

また食料を保管する倉庫もあり、畑で収穫した主食である大量のじゃがいもは、こうして保管しておくと1年間は保つそうです。

おばあちゃんが93歳になっても可能な限り自分で野菜を作り続けている理由は、第二次世界大戦後にシベリアへ強制追放され、とても辛い環境の中で10年間生活していたことにあります。

追放時に30分ほど、持って行く荷物をカバン1つ分だけ準備する時間を与えられたそうですが、時間は短く十分なものを持って行くことができなかったと振り返ります。シベリアではロシア人の家に居候して寒い台所の床で寝る生活。着るものがなく、ロシア人のお古のTシャツを貰って子どもの服を縫ったり、食べ物も全くなくていつも空腹だったり。木の皮を剥いで食べたり、草を食べて飢えをしのいでいたりしたこともあるそう。

食べ物を自分で作る力と長期保存する知恵は、おばあちゃんの生き抜くための武器なのです。

そして食べ物だけでなく、物も全くなくて困った経験から、おばあちゃんは滅多なことではものを捨てず、長い間大切に大切に使い続けています。部屋の中を見渡すと、調理道具もお皿も、机も椅子も年季の入ったもので溢れかえっていました。

それらに、わたしはおばあちゃんの愛と強さを感じました。

蒔で火をおこす、昔ながらのコンロを囲んで、みんなで料理!

さらに驚いたことは、昔ながらの蒔で火を起こすコンロを、現役で使い続けているということ。この日、わたしは生まれて初めて、蒔コンロで料理をするという体験をしました。火加減は、お鍋をコンロから下ろしたり、また乗せたりして調節します。

とっても慣れた手つきで、ささっとじゃがいもの皮をナイフで剥き始める、おばあちゃん。剥かれた皮は、とても薄く無駄がありません。生ゴミたちは、庭の畑の肥料として使われ、循環していきます。

料理を始めたおばあちゃんの元に、子どもたちが集まってきて、みんなでお手伝いをはじめます。と思ったら、突然電車ごっこが始まって、小さな椅子を持って走り回る子どもたち。常に、子どもたちのかわいい笑い声が絶えない幸せをBGMに、おばあちゃんの的確な指示で、お料理は着々と完成していきました。

エストニア人の強くてやさしい精神

みんなで作った、ひき肉のサワークリームソース、ピーツサラダ、それからおばあちゃんが追加でいつの間にか作ってくれていたきゅうりのサラダ、買ってきてくれたパンとケーキを太陽の光が気持ちいお庭のテーブルの上に並べて、みんなでビュッフェ形式で頂きます。

用意してくれた飲み物も、お庭に自生したりんごを絞った自家製100パーセントのりんごジュース。周りの大自然の空気の香りと、太陽の光のパワーで、食欲が倍増。食べた料理は、素朴だけれども、野菜そのもののおいしさがしっかり口の中で広がる、とてもやさしい味でした。

今回の訪問は、わたしの好奇心と取材を兼ねて「エストニアの家庭料理を食べてみたい!」とわたしからお願いしたものです。最後に材料費を渡そうとすると、

「エストニアは昔から、自分たちがどんなに貧しくても、遠くからやって来たお客さんには、おいしいお料理を作って、精一杯のおもてなしすることが大切だという教えがあるんだ。だからお金はいらないよ。おいしく食べてくれて、お腹いっぱいになってくれたら、それだけで私たちはとても嬉しいよ」

と、返ってきました。

さまざまな国に支配された歴史を持つエストニア。昨年の2018年に、1918年2月24日の独立宣言から100周年を迎えました。今は街はのどかで、平和そのもの。街で出会ったエストニア人は静かで、シャイで、お礼の後の笑顔が素朴だけれども暖かい、とても親切でやさしい人たちでした。

わたしはエストニア語は、こんにちはの「Tere (テレ)」と、ありがとうの「Aitäh(アイタ)」しか、わかりません。おばあちゃんには英語も通じません。ずっとご家族に簡単な通訳をしてもらってコミュニケーションをとっていましたが、「ありがとう」以上の表現を自分の言葉でしたいと強く感じました。

でもそれができず、もどかしい気持ちでいっぱいになりながら、最後に精一杯の「Aitäh(アイタ)」を伝え、ハグをしてお別れ。そのときの、おばあちゃんのやさしい笑顔と澄んだ綺麗な青い瞳を忘れられません。

国も人も、たくさん大変なことを乗り越えた経験がある方が、暖かくて、やさしい気がします。

4日間滞在を通して、エストニアは私の大好きな国の1つになりました。

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KiKi・イラストレーター

西伊豆の小さな村から、旅するように生きて辿り着いたベルリンに住んで4年目。例えば、私のように小さい集落で暮らしている子が、そこから旅立つ時期を迎えたときに、『世界はこんなにも広くて、こんなにも選択肢があるんだ』って気づけるようなものを残していけたら、最高だなと思いながら絵と文章をかいています。

HP: http://kiyonosaito.com/

Instagram : https://www.instagram.com/kikiiiiiiy/

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