「一汁一菜という考え方」

「一汁一菜」という言葉をご存じでしょうか。昔からいわれているのは「一汁三菜」という和食の考え方ですが、それに対し、「一汁一菜」とは何なのでしょうか。このコラムでは一汁山菜の考え方についてお伝えしていきたいと思います。

2016年頃、テレビや雑誌でおなじみの有名な料理家さんである土井善晴さんが著書として提案したのが「一汁一菜でよい」という提案。そもそも一汁三菜とは、主食(ごはん)・主菜(メイン)・副菜・副副菜・汁物で構成される献立です。炭水化物・たんぱく質・主菜に足りない栄養素を含む小鉢・漬物のようなものか、海藻のちいさなおかず・野菜の汁物という栄養バランスの整った理想的な食事を指します。その一方で、この“理想的な”献立の呪縛から毎日献立を考えたり、買い物に行ったり、調理したり、片付けたり…と、多くの時間と思考エネルギーを費やし、それがストレスになっている方が多いと思うことがあります。

食いしん坊大国といわれる日本人は、それでも美味しいものを食べたい・食べさせたい、栄養のあるものを食べたい・食べさせたい、と心に思っている方がいらっしゃると思います。それなのに、仕事が忙しかったり、家事育児介護に追われてヘトヘトになってしまったり、時間がうまく取れなかったりと、理想と現実の差に強いストレスを感じてしまうのは珍しいことではありません。そんな一汁三菜の呪縛から新しい風を入れてくれたのが土井義春さんの「一汁一菜」という考え方なのです。

一汁一菜は主食と汁物(+漬物)という、ややともすると簡素で寂しい印象さえしてしまうもの。それでもそれで充分と土井さんはおっしゃいます。成長期のお子さまや、アスリート、疾病を持つ方は別として、確かに1日3食のうち1食か2食はそれでいい気がします。特に朝食は、個人的な感覚としても一汁一菜で充分と思えます。炊き立てご飯に、具沢山みそ汁で立派な朝ごはんですよね。もちろん夕飯も一汁一菜が適用できます。ただ、みそ汁に肉魚豆腐などたんぱく質を加え、具沢山にしないと食事の満足度は上がらないかもしれませんね。毎日毎食一汁一菜にする必要はないのですから。自分が疲れてしまったとき、「一汁一菜でいいんだよ」と自分を許してあげてほしいのです。ごはんとみそ汁じゃなくても、パスタとスープ、チャーハンとスープ、パンとシチュー…このような組み合わせでもちろんOK。食事の支度を調えられた自分をほめてあげる、それが大切だと思います。

土井さんは、ごはんとみそ汁が飽きないのは、どれも人間が意図してつけた味ではないから、とおっしゃっています。なるほど。ごはんは米の味、みそ汁はみそを作り出した微生物の発酵が作り出す味。山や海、花のような自然は見飽きないのと同じで、“自然”から生まれたものは飽きないのだそうです。

お料理が得意な方もそうでない方も、お料理が好きな方も嫌いな方も「一汁一菜でいいんだよ」という言い訳を、立派な逃げ場を心に留めてください。きっと救われると思います。



参考:「一汁一菜でよいという提案」土井善晴 グラフィック社

   「KOKOKARA」生協パルシステム

オフィシャルメンバー:滝野 香織

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